ナヴァロは1950年7月7日、日本流で言えば「七夕」の日に結核に合わせ、ヤクという悪習により26才の若さでこの世を去っている。だが、ジャズ・トランペッターの系譜を語る上で、ナヴァロは必ずガレスピー~ブラウンのライン上にのぼる大物、巨人として認知、評価されている。
ただ、その短い人生に加え彼自身、リーダーとして録音することに積極的でなかった事も手伝い、その音源は「巨人」のわりには思いの外、限られている。当然ながら12inchフルサイズでのオフィシャル・リーダー作は一枚もない。「伝説」というより「神話」に近い巨人と言っていいかもしれない。
色々なセッションを集め12inch化されたアルバムでは、SAVOYの2枚、BNの2枚が一般的に良く知られている。その中で、ダントツの人気を誇るアルバムが本作(SAVOY MG‐12133)。三つのセッションから成っているが、何と言ってもタイトルにもなっているトップの‘Nostalgia’である。なお、この‘Nostalgia’は良く知られているスタンダード・ナンバー”Out Of Nowhere”を原曲としたナヴァロのオリジナル。
凡そジャズ・アルバムとは思えぬ古ぼけたベンチに一輪の野ばらとtp、そして楽譜をさりげなく敢えて無造作(地面にまで散らばっている)に置いたカヴァと”Nostalgia”の愁いに満ちたメロディが妙にマッチし心の襞を掻き毟る。また、真っ赤に塗られたタイトルが意味するものは、志半ばにしてこの世を去らねばならなかったナヴァロの無念さの深さを代弁しているのだろう。
ナヴァロのtpの大きな魅力はなんといってもそのブリリアントな音色と歌心ではないでしょうか。本作の三つのセッションからもナヴァロの特長は聴き取れるが、やはり、1947年12月5日のリーダー・セッション、‘Nostalgia’を含んだの四曲が演奏内容、バランスともに一歩抜きん出ている。ラウズのtsもなかなかいい味を出しています。とは言うものの、他の二つのセッションにしても、ぐっと腹が据わったソロはナヴァロの名声を充分に裏付ける好プレイです。
ナヴァロが活躍した時期(ビ・バップ)と限られた音源のため、その名を聞いたり見たりする事はあっても、実際に聴くチャンスは意外に少ないやもしれませんが、一度でも「ノスタルジア」のメロディを耳にしたならば、出勤途中の駅のホームで、或いは、会社のエレベーターの中でこの「ノスタルジア」を必ず思い浮かべるでしょう。
記録としてはBNの‘THE FABULOUS vol.1/2’の方が上だが、記憶としてはこの”NOSTALGIA”の方が上だろう。