jazz and freedom and records

ジャズ レコードを聴きながら勝手気ままな戯言日記、暇つぶしにどうぞ・・・・・

FEELIN' GOOD ! ・・・・・ LOOKIN’ GOOD ! / JOE GORDON

(CONTEMPORARY S7597)

60年代の初め、西海岸にはカーメル・ジョーンズの他にもう一人、優秀なトランペッターがいた。それが、本作のジョー・ゴードン。まだ新人の域であったカーメルと違ってゴードンは58年、ウエスト・コーストに移住するまで、既にイースト・コーストで、ブレイキー、モンク、シルバー達に交じって第一線で活躍、また、パーカーと共演した経歴も持っている。
コレクターズ・アイテムの一枚として知られるトランジション盤「バーズ・アイ・ヴュー/ D・バード」やシルバーのエピック盤「シルバーズ・ブルー」等でその名は知られているが、やはり「幻の名盤読本」に掲載された初リーダー作‘INTRODUCING / JOE GORGON’(Emarcy)が一般的には有名で、その「幻の名盤読本」ではEmarcy盤の方が優れているとコメントされてるが、さぁ、果たしてどうでしょう? それにゴードンのリーダー作はわずか2枚だけなので、比較する事自体が大人げないです(笑)。

ゴードンは1928年、ボストンに生まれ、あのC・ブラウンとD・B誌国際批評家投票で新人賞を争ったほどの実力者で、新人王に輝いた友人でもあるブラウンはゴードンに「本当は君が選ばれるべきだった」と語ったそうである。
 そのゴードンが本来ならば、もっと注目され、ブラウンの不慮の死後、より活躍の場が与えられて然るべきだったのに、そうならなかったのは不思議なぐらいです。ブラウンが生きている間は「ブラウンは二人と要らない」という市場原理が働き、死後はバード、モーガンといった次世代のホープ達に、第二のブラウンとして目が向けられたのは当たらずとも遠からずだろう。また、ブラウンと同じEmarcy所属たったことも不運と言えば不運。
そんな背景がゴードンにウエスト・コースト行きを決心させたのかもしれない。ただ、果たしてそれがゴードンにとってプラスになったかどうか?微妙な所です。なお、ウエスト・コーストではシェリー・マンのグループでカミュカ(ts)とフロントを務め、好録音を残している。

 

1961年7月録音のこの作品のポイントは、ゴードンのメロディアスなプレイの他にもう一つある。全8曲全て、彼のオリジナルで占められ、それがなかなかチャーミング、しかも、作曲の勉強はまだ一年前からとの事。何曲かは元ネタがありそうな感じがしないでもないが、バップ調のアップ・テンポの曲からブルース、ゴスペル調、リリカルなバラード、そしてラテン・テイストの曲までバラエティに富んだ構成が思いのほか決まっている。

まずトップの‘Terra Firma Irma’、躍動感溢れる魅力的なテーマに続き、ゴードンの高域にやや輝きを強めた小気味の良いペットが滑り出す。最初のさりげないワン・フレーズが実に気持ちよく、思わず聴き耳を立ててしまう。後は言うに及ばずゴードンの実力を充分に知らしめるスインギーなtpがヒットする。問題はその後のジミー・ウッズのas。一つ間違うとグロテスクとも思えるアクの強い音とフレージングだ。この辺り、人によってはアルバム全体の評価の分岐点になるやもしれませんが、これも有りかな、と僕は軽く流している。
この‘Terra Firma Irma’が一番の出来ですが、エキゾチィックな香りを含んだワルツ曲‘Mariana’ではセンチメンタルな雰囲気をも漂わせながらtpを鳴らし切るゴードン、イイ感じです。また、その後の‘Heleen’ではリリカルなタッチでロンリーに歌う技まで聴かせている。
実力の割りにリーダー作に恵まれず、知名度は低いがコレクションに一枚加えてみる価値は充分にあります。

シャレ者、ゴードンを写したアルバム・カヴァも”LOOKIN’ GOOD”だが、モードを絡ませポスト・バップの匂いを乗せた演奏内容はそれ以上に”FEELIN’ GOOD”。

そんなゴードンのモダン・トランペッターとしての優れた資質と隠れた作曲の才能は、サンタモニカのホテル火災の焔に包まれ、1963年11月4日、その火傷がもとで死去。享年35。ジャズtp界はまたしても潜在能力豊かな逸材を失ってしまった。